WORK ビジネススキル

ビジネススキルは「盗む」ものだと気づいた話

経営者として20年以上やってきて、若い頃の自分に一番教えてあげたいことがある。それは「ビジネススキルは本からじゃなく、人から盗め」ということだ。

20代の私は自己啓発本マニアだった。本棚には『7つの習慣』から『金持ち父さん貧乏父さん』まで、ビジネス書がぎっしり。週末は読書、ノートにまとめ、蛍光ペンで線を引く。完璧だ、これで成功間違いなし。

結果? 大失敗した。

初めての大型商談で、本に書いてあった「SPIN話法」とやらを駆使してみた。「状況質問から入って、問題質問、示唆質問...」と頭の中で復唱しながら話していたら、相手の部長が不機敬な顔で「で、君は何が言いたいの?」。その場で真っ白になった。本には「こういう時の対処法」は書いてなかったのだ。

スキルは「見て盗む」もの

転機は30代前半。ある先輩の商談に同席させてもらった時だった。

その人は理論もフレームワークも使わない。ただ相手の話を聞き、うなずき、時々質問する。「なるほど、それは大変でしたね」「じゃあ、こういうことでお困りなんですか?」。自然な会話の中で、いつの間にか相手が本音を語り始めていた。

商談後、私が「どんなテクニックを使ったんですか?」と聞くと、その人は笑って「テクニック?ただ相手の話を聞いただけだよ」。その時、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。

本には載っていない「空気」

ビジネススキルで一番大事なのは、その場の空気を読むことだ。相手が何を求めているか、どんな気持ちでいるか、今このタイミングで何を言うべきか。これは本では学べない。

今でも覚えているのは、初めて大きな契約を取れた時のこと。準備した資料は半分も使わなかった。相手の方が雑談の中で「うちの息子がね」と話し始めた。私は資料を閉じて、その話に耳を傾けた。30分後、その方は「君と仕事がしたい」と言ってくれた。

あの時、若い頃の私なら「時間がもったいない」と資料の説明を続けていただろう。

失敗から学ぶということ

若い経営者によく言うのは、「失敗を恐れるな」ではなく「失敗したら観察しろ」だ。

なぜ失敗したのか。あの時、相手は何を考えていたのか。もし先輩だったらどう対応しただろうか。この「観察眼」が、どんなビジネス書よりも役に立つ。

最近、若手社員が「おすすめのビジネス書はありますか?」と聞いてきた。昔の自分と同じ質問だ。私はこう答えた。「本を読むのもいいけど、社内で一番できる人のそばにいて、見て盗め。ランチに誘え。同行させてもらえ。それが最高の教科書だ」

スキルは更新し続けるもの

面白いことに、ビジネススキルは常に進化している。20年前に通用した方法が、今では時代遅れということもある。だからこそ、人から学び続けることが大切なのだ。

本は過去の成功例を教えてくれる。でも、目の前の成功者は、今まさに通用する方法を実践している。どちらが価値があるかは、言うまでもない。

ビジネススキルは積み重ねるものではなく、盗み続けるもの。それが何歳になっても学び続けられる秘訣だと、私は確信している。

スキルは本で学ぶものではなく、人から盗むもの。そして失敗から学ぶもの。これが経営者としての実感だ。

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